【世界一になったカピバラ】 001

その流れ星を見送ったあと、僕とタマは初めてキスをした。

猫のタマと出会ってから何十年目かの、
もしかしたら何百年目かの初めてのキスは、
前歯がガツンとあたってちょっとカッコ悪かったけど、
それでも、この世界の何十億年の歴史の中で
いつの時代の誰がしたどのキスよりも
世界一幸せなキスだった。
と、僕は思う。


【そして、また。】 002

引っ越し先の動物園は広くてなかなか住み心地がよさそうだ。
飼育員さんは、この動物園のカピバラの子と僕を結婚させるつもりらしい。
いわゆる婿入りってやつだ。

しばらくするとカピバラの女の子が僕の前に連れてこられた。
わずかの差で姉さん女房になるらしい。
飼育員さんがその子に僕を紹介する。

「君の旦那さんになるゴロッちだよ。」

そして、僕に姉さん女房を紹介する。

「ゴロッち、君の奥さんになる、タマゴだよ。」

「タマゴ」という名のカピバラの女の子は、暖かい笑顔を浮かべ静かに僕に話しかけてきた。

  「また逢えると信じてた。願いは必ず叶うから」

その笑顔を見た瞬間、僕は全てを思い出した。

ボロボロと大きな涙が流れた。胸がつまった。
そしてやっとの思いで絞り出すように言った

   「ずっと言いたかったのに言えなかったことがあった。
   今やっと思い出したよ。

   ありがとう、愛してる。」

【そして、また。】 001

僕はカピバラ。名前はゴロッち
1年とちょっと前にこの動物園で生まれた。
僕としてはこの動物園になんの不満もないんだけど、別の動物園に引っ越すことになりました。
引っ越し先はどんなところだろう?
いやまぁ、おいしいものを食べさせてもらえるならどんなところでもいいんだけどね。

【後悔】 003

再び目の前に女神様が現れた。
僕は懇願した。
タマに会いたい。
天国でも地獄でもどこでもいいからタマのいるところに行かせてくれと。

女神様は首を横に振った。
どんな理由であっても「神を恨む」とつぶやいてしまった僕の願いは、もはや聞き入れられないのだという。
僕はひどく後悔した。

そして僕は女神様にもらった五郎としての1年間を終え、再び転生した。
ブタになり、カラスになり、ボウフラになり、カブトムシになったが、タマとは違って前世の記憶は残っていなかった。

【後悔】 002

 神様、…恨みます

神様はタマが流れ星にした願いを叶えてくれたのかもしれない。
でも「死んでもいい」は言葉の綾だろう。
願いを叶える代償を求めるなら、悪魔の契約と一緒ではないか?

 神様、僕はあなたを恨みます。

僕は再び、何も考えられず、何をしていたのかわからない数日間を過ごした。
そして、人間としていられる最後の日を迎えた。

【後悔】 001

でもその約束は果たされなかった。
タマはその日の夜、眠ったきりもう目をさまさなかった。
この病院では面会時間以外は家族しか付き添えない。
僕はタマの最期を看取ることができなかった。

なぜ?こんなことって…

  結局、

   「ありがとう」を

     ちゃんと言えなかったじゃん……。