2021-07-01から1ヶ月間の記事一覧

【やがて来るタイムリミット】 004

タマによると、その病気との付き合いはもう何年にもなるらしい。なんか難しい病名を教えてくれたけど、その難しい病名を記憶できるほど僕は冷静ではいられなかった。 余命が短いことを知っていたタマは、僕にそれを告げるか悩んだけど、いろいろ考えた結果黙…

【やがて来るタイムリミット】 003

タマが入院した病室に駆けつけると、意外にもタマは元気そうで、僕に笑みを見せてくれた。それを見た僕はその場でヘナヘナと崩れ落ちた。たぶん腰が抜けるってこういう状態なんだろうと思う 「なんだ元気そうで良かった」 と言うとタマはちょっと顔を曇らせ…

【やがて来るタイムリミット】 002

僕は悩んでいた。苦悩していた。間もなくタイムリミットの日が来る。残された時間をタマとどう接すればよいのか、どのような最後を迎えればよいのだろうか?何かすべきことがあるんじゃないのか? 何も思いつかないまま、残り10日となった日、いつも待ち合…

【やがて来るタイムリミット】 001

そんな幸せな日々も終わる日が近づいている。タマに「ありがとう」を言うために女神様にもらった時間は1年だけだ。 タマにはまだ「ありがとう」を言ってない。それを言った瞬間に女神様が「想いは遂げられたしもういいよね」って繰り上げ終了されたら困るか…

【幸せな日々】 006

タマとの幸せな日々についてはいくらでも書けるけど割愛させていただきます。ノロケ話は話してる方が気持ちいいだけで、聞いてる方は「はいはい、そりゃよかったね」って感じだろうからね

【幸せな日々】 005

そんなこんなで約一年、幸せな日々が続いた。映画にも行ったし海にも行った。箱根に旅行にも行った。タマが高校生なのでもちろん日帰りでね。「次は泊まりがけで来たいね」と言うとタマは耳まで真っ赤にして、小さな声で、でもハッキリと 「うん」と言った

【幸せな日々】 004

”珠美は、あんたに「タマ」って呼び捨てにして欲しいらしいよ。「珠美」じゃなくて「タマ」。そう呼んでいいのはあんただけなんだって。なんかね、よくわかんないんだけど、要するにあんたはあの子にとって特別なんだよ。” 「何て書いてあったの?」と聞く珠…

【幸せな日々】 003

仮に、その手紙に「珠美と別れて私とお付き合いしてください」と書かれていても僕は珠美ちゃん一筋だぜ。いや、たまにパフェを食べに行くくらいの仲なら許されるだろうか?などといろんなことを考えながら手紙を開ける。そこには全く予想していなかった文面…

【幸せな日々】 002

再会してから何か月か経ったある日、珠美ちゃんが、珠美ちゃんの友達から僕宛の手紙をあずかってきた。 手紙といってもノートのきれはしで、折り紙のように起用に折りたたんであるだけのもの。こっそり読んだとしても元の通りに折れば、バレることは100%…

【幸せな日々】 001

それからは毎日、珠美ちゃんと会っていろんな話をした。珠美ちゃんは学生なので平日は夕方しか会えなかったけど1時間でも30分でも良かった、雨の日でも雪の日でも毎日会った。珠美ちゃんに会えるだけで幸せだった。 珠美ちゃんは、あんなに好きだったゴロ…

【再会】 008

でもまぁ、ファミレス、ドリンクバー、アパート、1DK、カピバラの僕がおよそ知るはずのない知識を女神様があらかじめインプットしてくれたことは本当にありがたい。おかげで違和感なく人間界での生活ができる。女神様グッジョブ

【再会】 007

それからファミレスに移動して話をした。女の子の名前は珠美(たまみ)だそうだ。僕は自分を五郎(ごろう)と名乗った。 なぜそう名乗ったのかというと、その名前が頭に浮かんだから。おそらく、女神様のサービスで、そういう設定がされているのだろう。女神…

【再会】 006

あえて聞かなかったけど、その子はもう何時間も前から公園で待ってたような雰囲気だったよ。カピバラの僕を1日中見てるような子だからきっとずいぶん気が長い子なんだろう、たぶん。

【再会】 005

翌日、公園へ。約束の時間よりかなり早いけど他にすることもないし、まぁいいか。 悲しみをまだ引きずっているであろうその子にどんな声をかけるべきだろうかと思案しながら公園に着くと、 その子はもう待っていて、僕をみつけると僕の心配が馬鹿みたいに思…

【再会】 004

ひとしきり泣いて少し落ち着いた様子だったので「もう暗くなったし帰った方がいい、家まで送りますよ」と言うと「すぐ近所ですから大丈夫です」と断られた。そりゃそうだ。警戒しない方がおかしい でも「それじゃ、明日は日曜日だし、またここで会って話しま…

【再会】 003

その子は、大好きだったカピバラの「ゴロゴロ」が事故で死んでしまったこと、そのカピバラと最初に出会ったは1年ほど前で、それからときどき会いに行っていたこと、自分が行かなかった日に死んでしまったのでお別れを言えなかったこと。それが悲しくて落ち…

【再会】 002

「どうしたの?お腹でも痛いの?」と声をかけると顔をあげて僕をみて、びっくりしたような顔をして少しの間固まってしまった。そりゃそうだ。夕方の人気のない公園で見ず知らずの男に声をかけられたのだ、びっくりするでしょうとも やがて女の子はまた顔を伏…

【再会】 001

その子には簡単に会えた。食料の買い出しにコンビニに行った帰り道、途中にある公園のブランコにその子が座っているのを見つけた。ブランコをこぐこともせず、何か食べたりスマフォをいじったりすることもなく一人でただ座っていた こんなに早く出会えるなん…

【1年】 008

女神様はその願いを聞き入れてくれた。1年だけ人間の姿で転生させましょう。その子を探し、想いを遂げなさいと。 「良いですね、1年だけですよ」

【1年】 007

動物園でのんびり暮らしてるとは言ってもストレスがないわけではない、仲間と食べ物をとりあってけんかになることもあるしマナーの悪いお客に嫌な思いをすることもある。 それでも、あの子のおかげで、あの笑顔のおかげで、円形脱毛症になることもなく穏やか…

【1年】 006

その女の子は、動物園にときどき来て、僕にたくさんエサをくれた。高校生くらいだろうか?一日中、笑顔で僕だけを見ていた。その子が来るようになってどれくらいになるだろう?最初は、「よくエサをくれる親切な女の子」としか思っていなかったけど、次第に…

【1年】 005

気がつくと目の前にあの女神様がいて、僕が死んでしまったことを教えてくれた。そして、生前たくさんの人に癒しを与えたことのご褒美にひとつだけ願いを叶えてあげましょうと言った。 僕の願いは1つしか思いつかなかった。 あの子に会いたい。 会って「あり…

【1年】 004

その動物園ではお客さんがエサを買って僕らに食べさせてくれるシステムがあった。お客さんが出入りする扉は2重になってたけど、その日はなぜかすり抜けて外に出られてしまった 別に脱走したかったわけじゃないけどすり抜けてしまったものはしょうがない。ち…

【1年】 003

手を見る。指は5本、水かきはついてない。洗面所に行って鏡をのぞいてみる。そこには男の姿があった。20歳くらいかな。普通の人間の男だ。女神様のいう通り僕は人間に転生したのだ。どうせならもちょっとイケメンにしてくれたら…女神さまも気が利かないぜ…

【1年】 002

このアパートも、「アパート」とか「1DK」が何なのかという知識も、女神様がサポートとして与えてくれたものだろう。 本来そんなもの知ってるはずないんだよ。アパートに住んだことなんてないんだから。 だって、僕、カピバラだし。

【1年】 001

「良いですね、1年だけですよ」 と、その女神様は言った。「わかりました。ありがとうございます」答えると女神様は優しく微笑んだ。すぐにまぶしい光が周囲を照らし、僕はたまらず目を閉じた。 目を開けると狭い部屋の中に居た。どうやらアパートの1室の…